大判例

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福岡地方裁判所 昭和44年(行ウ)5号 判決

原告 三村清正

〈ほか二名〉

右訴訟代理人弁護士 谷川宮太郎

同 中村経生

同 鎌形寛之

同 古川太三郎

同 田中巖

同 鈴木紀男

同 武子暠文

同 藤原修身

同 生井重男

同 福井泰郎

同 石井将

同 吉田雄策

被告 北九州市長 谷伍平

右訴訟代理人弁護士 苑田美穀

同 山口定男

同 立川康彦

被告指定代理人 篠木幹夫

〈ほか四名〉

主文

一  被告が昭和四三年一一月二日付で原告らに対してなした各懲戒処分はいずれも取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨の判決

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(事実上の主張)

一  請求原因(原告ら)

(一) 原告らは昭和四三年一〇月当時、北九州市清掃事業局小倉西清掃事務所に勤務していた清掃作業員であって、単純な労務に雇用される者であり、いずれも北九州市役所労働組合(以下市労という)に加入していた。

被告は北九州市長であって原告らの任免権者である。

(二) 被告は前記任免権に基づき、昭和四三年一一月二日付で後記原告らの行為に対しいずれも地方公務員法第二九条一項一号、二号、三号同法第三二条、第三三条、第三五条及び地方公営企業労働関係法第十一条一項を適用して原告三村清正を懲戒免職に、同早川進、同牧野茂夫を各停職三ヶ月の処分に付した。

(三) しかしながら、被告のなした右懲戒処分は違法のものであるからその取消を求めて本訴請求に及んだ。

≪以下事実省略≫

理由

第一  請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

第二  そこで被告の抗弁につき順次判断する。

一  一〇月八日の争議行為に至る経緯等

≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。日本公務員労働組合共闘会議(以下公務員共闘会議という)は、公務員労働者の生活と権利の確立等を目的として、総評傘下の官公労組を中心として組織された共闘組織であるが、昭和三五年二月結成以来、公務員の労働条件の改善、とりわけ公務員賃金の引上げを当面の目標として掲げ毎年政府並びに人事院に対して賃金闘争と称して要求活動を展開してきた。昭和四三年のいわゆる第九次賃金闘争は、政府が同年度予算の基調に総合予算主義をとり公務員の賃金を当初予算に計上した賃金改定源資の枠内に止めようとするいわゆる所得政策の方向を打ち出したことに対応し既に同年三月ごろからその取組みがなされた。

公務員共闘会議の試算によると、右総合予算に従えば、公務員賃金の引上げ率は実施時期を四月として四・五%、昭和四二年度と同様の八月実施として七・二%の上昇に抑制されることになるとして右政策に強く反対し、賃金の大幅引上げの実現を目指すと同時に総合予算主義を打破するため、まず人事院勧告において大幅な賃上げを引き出すべく第九次賃金闘争の方針を決定した。そこで公務員共闘会議は、人事院が同年三月中旬、同年度の職種別民間給与実態調査の準備を進めるや、右調査が人事院勧告のいわば設計図となることから、調査企業規模及び従業員の年令区分、いわゆる春闘積上分の処理、諸手当及び一時金、並びに法定外福利関係の調査等の諸点を中心として調査要綱および調査票決定について、公務員共闘会議の意見を人事院に対し表明しかつ要請した。

人事院は同年八月一六日俸給、諸手当その他合計で平均八%の賃上げ(五月一日実施)を含む賃金の改善等につき政府並びに国会に対して勧告を行い、政府はこれをうけて同年八月三〇日閣議を開催した。その間、自治労は、同月二四日から二七日まで熊本市で行われた第一七回定期大会で、人事院勧告後の情勢から人事院勧告の五月実施、最低三、五〇〇円引上の保障、地方財源確保等を目標に政府交渉を行い、かつ閣議決定期へむけて九月一〇日三割休暇動員による地区集会、九月二五日全員参加による時間外地域大決起集会及びデモ、そうして一〇月八日始業時より一時間以上のストライキ(職場集会)を行うことを決定した。その後公務員共闘会議の代表者は当時の給与担当大臣との話し合いの中で政府の方針として「人事院勧告の内容を尊重する、給与改善の実施時期は前年と同様の八月実施とする」旨聞知した。そこで公務員共闘会議は右大臣に対し人事院勧告の完全実施方を強く要請する一方、幹事会を開き、閣議決定に対する抗議声明をし、かつ同年一〇月八日のストライキを既定方針どおり行うことを確認し、九月一〇日に予定されている第六次統一行動成功のための各県公務員共闘への要請の電報をそれぞれ決定し発表した(自治労が昭和四三年八月二四日から二六日までの間、熊本市で第一七回定期大会を開き、そこで公務員賃金の引上げ、人事院勧告の完全実施を要求して一〇月八日に始業時から一時間の全面ストライキを行うことを決定したことは当事者間に争いがない。)。

自治労福岡県本部では九月三〇日、一〇月一日の両日にわたり同県本部の定期大会を開き、前記自治労の決定した方針を確認したうえこれを確実に実施すること並びに地域における他の労働団体とともに闘う方針を決定した。

以上の事実を認めることができ右認定を左右するに足る証拠はない。

原告ら所属の市労(組合員約七〇〇名)は自治労に加盟しているところ同年九月二九日右自治労の方針に従い一〇月八日始業時から一時間のストライキを行うことを決定し以後その準備をしてきたこと、これに対し被告は右ストライキを未然に防止し、市の業務運営に支障なからしめるため一〇月四日市労に対し市職員がストライキを行うことは違法行為であるので中止するよう警告書を交付し、さらに同月七日各職員に対しても警告書及び職務命令書を交付し、職務に従事するよう命じた。小倉西清掃事務所においても一〇月四日事務所及び作業員詰所に市長名による警告文を掲示するとともに同月七日各職員に対し前記警告書及び職務命令書を交付し、職務に従事するよう命じた。

以上の事実は当事者間に争いがない。

二  小倉西清掃事務所における争議行為とその影響

小倉西清掃事務所の清掃作業員総数一一四名中約一〇〇名の市労組合員(原告ら三名を含む)が昭和四三年一〇月八日始業時の午前八時から同八時五七分までの間、同事務所作業員詰所二階で職場集会を開催したことは当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によると、右の勤務時間内職場集会によってその間、前記作業員らが職務を放棄したため同日の同清掃事務所の業務が阻害され、ごみ二五トン(収集予定量の約二五%)し尿約一九キロリットル(収集予定量の約二二%)の滞貨を生じるに至った。

即ち、平常勤務の場合であればごみについては延稼働台数六五台分を搬送すればほぼ計画収集に見合うところ同日は右職場集会のため延稼働台数四四台分しか処理できず延稼働台数二一台分の滞貨を生じた。そうして当時北九州市では原則として容器収集方式で週二回の収集を行っていて、住民はごみ回収日にはごみを回収場所に出すことになっていたので、滞貨を放置することができず、同事務所は、民間業者から小型機械車一台、中型ダンプ車三台を借り上げ延十三台を投入し、かつ同事務所の所長以下の管理職が勤務時間外に直営車四台(延八台)を稼働してごみ滞貨の収集作業に従事したことにより同日中に滞貨処理を完了した。しかし、し尿については平常勤務の場合、一日一〇台の車が延三五台分の搬送をすることによって一区域につき二〇日周期の収集を行う体制であったところ当日は前記集会のため延二七台分の搬送にとゞまったゝめ稼働台数延八台分の未処理滞貨を生じたまま後日の収集に持越したため二〇日周期の計画収集が若干延長したが、その後民間車借上げ等の処置もとって、同年十一月ごろには右二〇日周期の計画収集ができる状態に戻した。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三  一〇月八日の原告らの各行為について

(一)  入室阻止行為等の存否

被告は抗弁(一)の3において原告らの管理職に対する詰所への三回にわたる入室阻止行為及びこれに付随する行為を具体的に主張し、証人中畑敬雄同下原万亀雄は、ほぼ右主張に符合する証言をするが、次に認定する各事実に照らすと右各証言は後日の紛争と一部混同して述べられているふしもあり、とうていこれを信用できない。すなわち≪証拠省略≫によると次の事実を認めることができる。

小倉西清掃事務所における一〇月八日の前記職場集会は市労のストライキ指令に基くものであるところ、原告三村清正は市労本部執行委員、青年部長として、原告早川進は市労小倉支部長として、原告牧野茂夫は同支部執行委員としていずれも右職場集会の指導的役割を担っていた。これを具体的にみると原告早川進は右職場集会の主催者の地位にあって同事務所に所属する市労組合員にその参加を呼びかけ、右集会において司会をなした。原告三村清正は市労青年部が今後組合の先頭に立って活躍しなければならない旨演説し最後に同日の作業につき安全作業を指示した。原告牧野茂夫は所側の前記職務命令書を集約し一括して同事務所長に返却すること及び組合員に対して職場集会に参加するよう呼びかける役割を担いこれを実行した。ところで同日の職場集会は午前八時直前に同詰所二階で組合員約一〇〇名参加し原告早川の司会によって開らかれたが既に同時刻には右早川は勿論、原告三村、同牧野も市労書記長下原広志及び市労小倉支部副支部長後藤基治らと共に右集会場にいたものであり原告三村同早川は右下原、後藤らと二階入口の反対側の場所に、原告牧野は二階入口の場所にいた。詰所一階には早川支部長の指示により小倉支部職場委員竹村信芳ほか早川茂吉、吉川清正、宮崎義夫、坂本豊が配置されおくれて来る組合員に対する集会参加の呼びかけの役割を担っていたが、同所には他に組合員は残留していなかった。このように原告三村同早川は組合の役員としてそれぞれ重要な役割を分担していたことから職場集会中はこれに専念しており両名とも右集会中階下へ降りた事実はない。また集会場は約二〇坪であって満員の状況であったから右両名の位置から容易に階下へ出入りできる状態でもなかった。

また管理職の詰所一階への入室は同二階における職場集会にとって何の痛痒も感じられず、詰所一階の裏入口(押しドア)は開放され自由に出入りできる状態にあってバリケードを築いた事実もない。現に同日八時一五分ごろマイク放送による就労命令の後指導員北村重見ほか一名が手割のため詰所一階に何らの妨害なく入室し、同所にいた前記竹村信芳は同人らに対し職場集会への参加を呼びかけている。右のごとく同日の職場集会は平穏かつ整然と行われた。

以上のとおりであって被告の前記主張事実は、≪証拠省略≫をもっては立証できず、他に右主張事実を立証するに足りる証拠はない。

(二)  マイク放送に対する抗議

被告が抗弁(一)の3において主張する、原告三村、同早川のマイク放送に対する抗議行為の主張は、これに副う証人中畑敬雄同下原万亀雄の各証言は存するが右は原告牧野茂夫の供述並びに次に認定する事実に比照し信用できない。

原告牧野茂夫の供述と証人中畑敬雄同下原万亀雄の各証言のそれぞれ一部をあわせると、

一〇月八日午前八時一五分前後に中畑副所長が事務所からマイク放送により職場集会をやめて職務に就くよう、三回にわたり繰り返し職務命令した。そこで原告牧野茂夫は詰所二階の入口から事務所に一人で赴き所長に対し「組合が事務所に貸しているマイク放送の器材を使い職場集会を妨害するような放送をするならばマイクを引き揚げる」という趣旨の発言をしたところ所長は「あゝそう云えば組合から借りたものだから妄りに使えんじゃないか」といった。

以上の事実を認定でき右認定に反する証人中畑敬雄同下原万亀雄の各証言は信用できない。

右の事実と、既に認定したとおり原告三村、同早川は職場集会中は詰所二階を離れた事実がなく、またその役割から見てもマイク放送の抗議に行ったものとは考えられない。原告牧野は詰所二階の入口にいて同人の担当した役割並びに支部執行委員という立場から考えてもマイク放送に対する抗議は同人単独の行動であるとみるのが合理的である。以上によって前掲中畑、下原のこの点に関する証言は信用できない。

(三)  清掃車を借りたことへの抗議

≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。

小倉西清掃事務所では、一〇月八日し尿車が車検、故障修理等のため不足していたことから、小倉東清掃事務所から予備車を借りて収集作業を計画し、中畑副所長は同日朝、詰所外の脱衣箱付近で職場委員長の今浪新太郎に対し車を借り上げてきているから組合員らと話し合いをしてくれとの趣旨の申込をした。そこで今浪は、前記職場集会終了後の午前九時ごろその旨原告早川に伝え、同人は原告三村ほか竹村信芳、下原広志ら組合役員らと共に右借上車の件につき大津正所長と話し合いをするべく事務所に赴いた。このとき他の一般組合員、二〇人ないし三〇人も事務所に詰めかけ事態の推移を見守っていた。原告早川は大津所長の机の前に対坐し、他の組合役員ら数名はこれを取り囲む様な態勢で、原告早川が同所長に対し、どこから車を借りてきたのかとの質問に対し、同所長は小倉東清掃事務所から借りて来て、既に配車済である旨返答したことから同事務所の右措置につき激しく抗議することとなった。即ち、従来民間業者等他から清掃車を借り上げる場合には事前に事務所側と組合側とで交渉をしたうえで実施していたこと並びに東、西清掃事務所の従業員は殆んど所属組合を異にし(西清掃事務所は市労、東清掃事務所は市職労)ほぼ二分された形となっていて市労結成当初のいきさつから相互の組合員間に感情的な対立があり当時までその対立が尾をひいていた関係上、東、西事務所間で器材の貸し借りをすることを忌み嫌う風潮があったことから同事務所の配車済の措置に対し感情的な抗議をする結果となった。そうして右早川の抗議中、所長の隣席にいた中畑副所長が「それは管理運営事項じゃないか、何で抗議されるのかわからない」旨発言したところ原告三村清正同牧野茂夫は同人の前に詰め寄り感情的になってこもごも「他から車を借りてまで働かせんでもいいではないか、人が余っておれば他の車につければいいではないか」とか「横から口を出すな、近ごろおとなしくしておればやりきらんと思っているのか」「やりきらんと思っていたら大間違だぞ」などといって抗議した。以上の事実を認定できこれを覆すに足る証拠はない。もっとも≪証拠省略≫によると、東西事務所間では相互に清掃車が不足した場合には東、西事務所の両運輸係長の話し合いによって本件前からその貸借がなされていたが何らの紛争はなかった。しかし清掃車、ことに予備車の場合には、車に何れの所属であるかは表示してなく、たゞ車輛番号から識別し得る程度であったことが認められ、右事実を左右するに足る証拠はない。

従って、本件前において小倉西清掃事務所の市労組合員が東清掃事務所から清掃車を借りて作業した場合に何らの抗議のなかったことは、おそらく右市労組合員は右の事実を認識し得なかった場合も多かったからと推測しうる。そして本件の場合は市労組合員らは当日は前記のとおり中畑副所長から通知を受けたことによってその事実を知り、当局の禁止下における争議実施当日という特別の状況下にあって前記の如く激しい抗議行動にまで発展したものとみられる。

(四)  ガラス破損行為の存否

被告が抗弁(一)の3において主張する原告三村のガラスの破損行為並びに原告三村同牧野の脅迫的発言の主張はこれに符合する証人中畑敬雄同下原万亀雄の各証言は、いずれも次の事実に照らし信用できない。

右中畑は「本件当日は、以前にひびの入っていたガラスは既に入替えられており原告三村はひびの入っていない新品のガラスを割った」と供述するが、本件当日大津所長の机の上に敷いてあった事務用ガラスは厚さ五ミリ程度のもので以前からひび割れしていたものでそのうえにセロテープを張っていたものであることは≪証拠省略≫によって明白である。また被告が当日割れたと主張するガラスの現物、或はその写真、ガラスの入替えを立証する証拠もない。

証人中畑敬雄の証言の一部と原告早川進の供述によると、右両名は前記抗議終了後、所長が早川に対しガラスが割れているので確認してくれといわれ、右早川がこれを見て「これは前から割れていたガラスじゃないですか。テープもこういうところに張っているじゃないですか」と云ったところ所長は「しかし離れてしまった。」「こっち側へも少しひびが入った」と話し合った事実が認められこれを左右するに足りる証拠はない。

以上の事実と≪証拠省略≫によると原告三村が前記抗議中、手で机の上のガラス(下にラシャを敷いてある)を叩き、その際ひび割れのガラスの割れ目にはってあったセロテープが離れてガラスが離れたものと推認することができる。以上の事実を認定でき(る。)≪証拠判断省略≫

以上のとおりであって被告のこの点に関する主張は、右認定事実以上の立証ができなかったことに帰着する。

四  一〇月二六日の紛争に至る経過

≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。

小倉西清掃事務所は、昭和四二年六月一五日、小倉清掃事務所が東西に分割され設立された。昭和四三年四月以降、同清掃事務所の清掃作業員の勤務時間は午前八時から午後三時五〇分までとなっていたが(北九州市労務職員就業規則)、現実には右勤務時間が厳守されない傾向にあった。当時、同事務所の清掃区域では原則として各戸ともごみについては一週間に二回、し尿については二〇日に一回の計画収集が実施され、ごみ、し尿とも清掃作業車の一日の車種別収集搬送回数並びに一台の積載量の基準がありそれを基礎として作業計画が樹立されていた。そうして清掃作業員の作業の実態は、午前八時に事務所に出勤し、清掃車が湯川の車庫から同事務所に到着する八時一五分ないし三〇分ごろまでは待機時間(手待時間)でありその間に作業配置(手割)がなされ、その後清掃車で当日の収集区域の収集作業にあたり午後二時三〇分ないし三時ごろまでの間には大半の作業員が事務所に帰り、その後入浴をすませ午後三時五〇分に退庁するのが建前となっていた。このような勤務形態であったから午前八時の出勤時間は特定の数人を除き殆んどの作業員がこれを遵守していたものの退庁時間については、大半の作業員がこれを厳守していなかった。即ち当日の収集作業を終え事務所に帰った場合、退庁時間を待たず管理職に届出て退庁する者、何らの届出なく無断で退庁する者、はなはだしきは収集作業を終え、事務所に帰らないまま現場から直接帰宅する者等あって退庁時刻まで待って退庁する者の方が少ない状況にあった。

このような勤務時間の不遵守に対し、同事務所では手待時間を利用し服務規律の遵守につき注意し或はこれを掲示しまた作業現場から直接無断で帰る者などについては明朝出勤の際その理由を聞き、悪質な場合については給与減額等相応の措置をとってきた。

清掃作業員の出・欠勤を明らかにするため、同事務所では出勤簿があったがこれとは別に各作業員の出・欠勤の状況と手割の便宜のため名札板が詰所に設けられていた。そして従来から各作業員は出勤時に右名札を表(黒色)にし退庁時には裏(赤色)に返すという制度があったが、必しも厳格に守られてはおらず、また果して本人自身の手によって右の行為が実施されているかどうか疑問の余地もあった。そこで同事務所では、前記勤務時間を確実に励行さす方法として、右名札を利用し、午前八時五分ごろ及び午後三時四五分ごろ管理職立会の下に本人の手によって右名札を表裏さすことによって出・欠勤状況を把握しようと企画した。

昭和四三年一〇月一八日、同事務所は、市労の小倉西支部に対し、右の名札の点検による出退勤の確認(以下名札の点検という)を実施したい旨申し入れたところ同支部が団体交渉事項であるとして反対したゝめ、小倉清掃局長の意見を求めた結果、同局では、管内の各清掃事務所で統一的に名札の点検を実施する方針を固め、その旨指示をうけたので、同月二四日の午後、詰所横にある掲示板に局長名で「職員の勤務時間は条例および就業規則により午前八時から午後三時五〇分までと定められているが、一部に勤務時間が守られていないむきがあるやに聞いていることは、まことに遺憾である。勤務時間中に職場を離れたり、退庁すると給与減額することがあるので、勤務時間を厳守されたい」との職員各位宛とした警告文を掲示した。そうして翌二五日右局管内の七つの清掃事務所および三工場の副所長会議を開き検討した結果同月二六日から統一して実施するとの方針を決定した。(しかし現実に実施したのは小倉西清掃事務所のみであった)。

他方、市労では、小倉西支部から前記名札の点検の実施の申入れ、警告文の掲示及び副所長会議での決定等の経過報告をうけ同月二五日午後五時ごろから急拠執行委員会を開き、名札の点検の実施とこれに関連する半日休暇に関する取扱い、手待時間における職場活動の問題等につき検討した結果、服務規律の改善に名を藉りた労務管理の強化と組合活動の抑圧であるとの認識をもつに至り、あくまで団体交渉により円満に解決すべく一方的な実施についてはこれを阻止する方針を決定した。そして同事務所の姿勢からみて一〇月二六日から名札の点検が実施されることが懸念されたため、市労は同日朝、特に下原書記長、三村青年部長の二名を小倉西支部に派遣し、一〇月八日の統一ストライキ以後の中央情勢の報告と並んで前記執行委員会の決定を伝達させ、事務所側の出方如何によっては強い抗議行動をとらせるべく、具体的戦術を右書記長に一任した。

以上の認定に抵触する前掲各証言供述部分は措信できず他に右認定を覆すに足る証拠はない。

五  一〇月二六日の抗議行動

≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。

(一)  昭和四三年一〇月二六日、市労の小倉西支部は、前記市労の決定に基き、同日午前八時ごろから(一五分間の予定で)手待時間を利用し詰所一階で下原書記長以下原告らの指導の下に清掃作業員ら約一〇〇名の者が職場集会を開催し、下原書記長が長椅子の上に立って一〇月八日のストライキに関する全国的な情勢報告と当日から実施される慮のあった服務規律の諸問題に対する市労の基本的立場につき教宣活動を行っていた。

小倉西清掃事務所は、同日から名札の点検を実施するべく、午前七時五五分ごろ、小倉西支部の職場委員長今浪新太郎を同事務所に呼び、名札の点検の実施とその方法等につき詰所に説明に行く旨伝達した。その後、中畑副所長は、同日午前八時一〇分ごろ松井、下原両係長及び指導員数名を伴い詰所一階に赴いたところ同所では前記職場集会が開かれていたので、下原書記長に対し時計を示し勤務時間中であるので集会を中止するよう命じたところ同人は了解したとの態度を示しながらなお集会を続行した。午前八時二〇分ごろ右集会終了と同時に、中畑副所長は再び詰所一階に入り清掃作業員らに対し、名札の点検の実施に関連して概略次のような説明をした。

即ち、前記副所長会議の決定方針に従い同事務所では同日から名札の点検を実施すること、その方法として名札は各自、出勤時は午前八時五分ごろ、退庁時は午後三時四五分ごろ指導員立会のうえで掛替へることによって出退勤、早退、遅刻等を確認する。右の不遵守については賃金カット等相応の措置をとるという内容のものであった。右説明に対し多くの清掃作業員らは事務所の一方的な実施に対し憤慨した。

つまりこれが厳格に実施されることになれば、従来便宜的方法として収集作業を終え事務所に帰って来た場合、退庁時刻を待たないで、帰宅しても、必しも賃金カットされていなかったのに、今後は、必要やむを得ない理由によって届出て帰宅しても賃金カットされる可能性が強くひいては勤勉手当等にも影響する。また半日休暇は条例上清掃作業員についても認められてはいたが、数人一組となって作業する関係で半日休暇はとらないでほしいという事務所側の協力要請と組合員の自主的な抑制によって、できる限り半日休暇をとらない傾向にあったが、右名札の点検を厳格に実施すれば、前記便宜的な方法の廃止との関連において場合によっては半日休暇をとらざるを得ないことにもなるし、更に場合によっては、半日休暇ですむときにも丸一日の休暇をとらざるを得なくなる。市労ではこのような認識の下に名札の点検の一方的実施に強く反対していたが同日の中畑副所長の前記説明に対しても当初は、全員平静に聴いていたが、その終りころには原告三村同牧野の質問や抗議に端を発し室内は騒然となった。このとき原告三村同牧野は「一方的に気のきいたことをぬかすな」とか「やり切るならやってみい」との趣旨の発言もした。

原告三村はそのころ中畑副所長に対し「天災地災のときも(便宜的方法は)認めないのか」との質問をしたが、既に清掃車が事務所に着き始めまた室内も騒然となっていたので、これには応答せず、全員に対し就労を命じ、約一〇分間の説明を終えて事務所に帰った。

(二)  下原書記長は前記市労の決定に基き、右名札の点検とこれに関連する問題につき事務所側と団体交渉をするべく早川支部長に伝え同人を通して清掃作業員らに対しその間就労しないで詰所で待機するよう指示し、早川支部長は同支部執行委員にその旨指示して清掃作業員約一〇〇名の者を待機させた。

同日午前九時過ぎごろ、下原書記長以下組合役員(原告三名を含む)らを中心に二〇ないし三〇名の者が事務所に入り下原書記長は所長及び副所長に対し名札の点検の実施方につき強く抗議し、一方的に実施するなら条例で認めているとおり今後、半日休暇をとる趣旨の発言をした。その際原告三村は「おれは明日昼から出て来るぞ、半日休暇をとってもよかろうが。」とか、原告牧野は「一方的にやり切るならやってみい」という趣旨の発言をして激しく抗議をした。

しかし所長及び副所長は、あくまで服務規律遵守のため清掃局の方針として決定したものであるからその実施を撤回できない旨回答し話し合いは対立したまま約三〇分にわたって抗議行動が続いた。

そこで下原書記長は、同日午前九時四〇分ごろ、組合の代表者と同事務所側との間で引き続き団体交渉を行うことを提案し、所側もこれを認め、ようやく清掃作業員らは収集作業を開始した。

その後、組合を代表して下原書記長及び原告早川支部長、事務所側は大津所長、中畑副所長らが出席し詰所二階で同日昼近くまで右名札の点検の実施問題について交渉をしたが、事務所の実施方針の決意は強く、結局基本的な問題については両者間に意見の一致を見い出すことはできなかった。しかし、その交渉を通じて、前記中畑の説明中、退庁時刻前の待機時間における突発事故等必要やむを得ないときは従前どおり便宜的な取扱い(賃金カットをしない)を認める趣旨であることを確認し同日の点検を中止する旨の明言はなかったが、近日中に改めて早急に右名札の点検問題に関し交渉するとの合意をした。

そこで原告早川支部長は点検中止と解し同日昼休と午後三時前ごろの二回にわたって、多くの清掃作業員らに対し同日午前中の交渉の経過を説明する中で、右名札点検の実施は後日改めて交渉をすることとなっているから一方的に強行実施することはない旨伝達した。原告三村も右経過報告をうけ、事務所が同日から強行実施することはないものと考えていた。

同日午後三時四〇分過ぎごろ中畑副所長は松井、下原両係長を伴って名札の点検を行うため詰所に入り、右両係長は各担当の名札を、(既に裏返しているもの)表に戻したうえ同所にいた作業員らに対し、「今から名札を各自返して下さい」と指示したところ女子作業員二ないし三名が名札を表に返そうとしたところ原告三村は右中畑に対し、「貴様たちは何をするか、支部長の報告と違うじゃないか」といって抗議し名札板の付近に至り、同所の作業員らに対しても大声で右指示に応じないよういって右指示を妨害した。同日退庁時刻における名札の点検は結局清掃作業員らが非協力的態度に出たため、その実施をすることができなかった。

(三)  一〇月二六日、小倉西清掃事務所に出勤した清掃作業員中原告らを含む約一〇〇名の者が勤務時間内職場集会参加、並びに名札点検実施をめぐる抗議行動により約一時間三〇分にわたってその職務を放棄したため同日の同清掃事務所の業務が阻害され、ごみ約一六・五トン(収集予定量の約一九%)、し尿約二七・七キロリットル(収集予定量の約三二・四%)の未処理滞貨を生じるに至った。

即ち、平常勤務の場合であれば、ごみについては延稼働台数六二台分を搬送すればほゞ計画収集に見合うところ同日は右職場集会等のため延稼働台数四八台分しか処理できず延一四台分の滞貨を生じた。そこで同事務所は民間借上車三台を投入し、また勤務時間外の管理職による直営車の稼働により右滞貨を処理した。し尿については、延稼働台数十二台分の滞貨を生じたまま後日の収集に持ち越したゝめ二〇日周期の計画収集が延長し、市民からの苦情が出たので、同年十一月になって、民間業者に請負わせて苦情の多い地区から未処理滞貨を処理した。

以上(一)、(二)の認定事実に抵触する前掲各証人の証言並びに原告本人らの各供述は措信できず他に以上の認定を覆すに足る証拠はない。

第三  地公労法十一条一項は憲法第二八条に違反するか。

一  労働基本権とその制約について

憲法第二八条は勤労者に対しいわゆる労働基本権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を保障している。その趣旨は憲法第二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、一方で憲法第二七条の定めるところによって、勤労者の権利及び勤労条件を保障するとともに、他方で憲法第二八条の定めるところによって経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として保障しようとするにある。

そして団結権、団体交渉権および団体行動権(主として争議権)は、互いに補完し、密接な関連を有するところ右三権が一体として保障されることによって経済的劣位にある勤労者が自ら実質的な自由と平等を実現することが担保され得るものと解される。

そしてこの権利は勤労者として自己の労働力を提供しその対価を得て生計を維持している者に対して保障されているものであるから、原告ら、地方公務員(単純労務員)はもとより国家公務員、公共企業体に勤務する職員も原則として保障されていることはいうまでもない。しかし、労働基本権のうちでもことに争議権は、その権利の性質上、社会生活の場において行使されるものであるから、その権利行使によって社会を構成する他人の基本的人権、その他の法益との間に矛盾し衝突をきたすことがあり得るのは避け難い。従って労働基本権と雖も何らの制約も許さない絶対的なものではないのであって国民全体の共同利益の擁護という見地からの制約を免れず、このことは憲法第十三条の規定の趣旨からいって首肯し得るところである。

ことに公務員の場合は、私企業の従業員と比較すると、その担当する職務内容において公権力の行使を掌る者は勿論、そうでなくとも多かれ少かれ公共性を有しその度合が概して大きいといえる。

また公務員の賃金は主として国民の租税によって賄われており国又は地方公共団体の財政に直接関連するから私企業の従業員よりも労働基本権の制限の可能性が一般的に強いことは否定できない。このように公務員の労働基本権の保障と国民全体の共同利益の擁護という二つの要請を、前記の労働基本権保障の趣旨を考量しつつ適度に調整する措置が必要となる。

右のような見地に立って、具体的な法律による労働基本権のいかなる制限が、憲法上許容されるかについて検討する。

労働基本権制限の合憲性判断の基準として中郵判決は次の四つの基準を示したが、当裁判所も右各基準を考慮して判断するのが相当であると考える。

すなわち①労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すると、その制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきであること、②労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いもので、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきこと、③制限違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度を超えないように十分配慮せられるべきであること、④職務または業務の性質上、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならないこと、以上の四条件である。なお被告は、公務員(本件では地方公務員で単純労務職員)の争議権は経済的自由権と目すべきものであると主張するが、この見解は、勤労者が自己の労働力を売却する以外他に生活の資を得るべき手段を有しない存在であることを看過し、憲法が勤労者の生存権を保障しこれを実現する重要な手段として憲法上保障されたものであることに対する正当な理解とはいい難い。

また労働基本権は生存権保障のための手段的権利にすぎず、それ自体が目的でないから勤労者の生存権確保のために他に代るべき手段があれば合理的な必要性のある限り許されると主張する。

しかし労働基本権は、勤労者がその経済的地位の向上ひいては社会的地位の向上を目指して自らの努力によってこれを実現しようとするものであって代償措置とはその機能的な面において相異があるのみならず、法律制度上の代償措置が十全に現実に機能しているかどうかその社会的事実関係を更に検討する必要もあると考えられる。

二  地公労法十一条一項と憲法二八条

原告らは、地方公務員法五七条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員で、地公労法一七条四項によりその労働関係その他の身分取扱いに関し特別の法律が制定施行されるまでの間は同法(十七条を除く。)及び地方公営企業法三七条から三九条までの規定を準用されることとなっている。

そして地公労法の適用のある地公労法三条二項規定の職員並びに同法を準用される単純労務職員の業務は、その性質上一般的に公共性を有することは否定できないが、その業務の性質、内容は公共性の強いものから私企業における公共性と比較しそれほど変るところのないものまで多岐にわたっている。

またひとしく争議行為といっても、その種類、態様、規模は多種、多様であって住民生活に及ぼす影響の程度も異ってくる。

ところで地公労法十一条一項の規定を文言どおりに解釈すれば、地方公営企業体等の職員並びに単純労務員は、あらゆる争議行為を、一律、全面的に禁止しているものと解せざるを得ないが、そうであるとするならば労働基本権制限の合憲性判断の基準として示した前掲①、②の基準に適合しないものとして違憲の疑いを免れない。

すなわち労働基本権は前記で触れたとおり、団結権、団体交渉権及び争議権を一体として保障することで労使の対等関係を維持すべく、争議権を事前に一律全面的に禁止した場合における団体交渉権は単に団結を背景とした交渉権に過ぎないものとなり、争議権を伴った団体交渉権との間には著しい差異のあることを看過すべきでない。従って争議権を制約するにあたっては多種多様の規整方法が存在するに拘らずこれを一律、全面的に禁止することは、合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきであるとの要請に反する。

また地方公営企業職員並びに単純労務員の職務の公共性の強弱、争議行為による住民生活に及ぼす影響の度合等につき考慮していないという意味でも前記②の判断基準に適合しない。

しかし、法律による禁止制限が文理上その内容において広範に過ぎ憲法の保障する基本的人権を侵害するような場合、その法律を常に全面的に違憲無効としなければならないわけではなく主要な部分が合憲として是認し得るものであればその法律の規定を可及的に憲法の精神に則してこれと調和するようにしてできる限り合憲的に解釈する方が、その規定を全面的に違憲無効として排斥するより国会の立法権を尊重する趣旨からみても合理的で妥当なものというべきである。

そうすると地公労法十一条一項の規定を労働基本権を保障した憲法二八条の規定の趣旨と調和するように解釈するならば、地公労法十一条一項の趣旨は、地方公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類、態様、規模とを相関関係的に考慮し、その公共性の度合、争議行為の態様等に照らして住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらす虞れのある争議行為に限りこれを禁止したものと解するのが相当である。

右のように地公労法十一条一項を限定的に解釈するならば、右規定は憲法二八条に違反するとは断定できないので、右規定を文言どおり解釈しこれを違憲、無効であるとする原告らの主張は採用できない。

被告は、国家公務員は、地位の特殊性、公共性、勤務条件決定過程の特殊性及び代償措置が準備されていること等をあげ、争議行為の全面一律禁止は合理的な必要性がありやむを得ない制限として合憲である旨主張しさらに現業、非現業を問わず地方公務員についても同様に解し地公労法十一条一項も合憲である旨主張する。

そこで、この点を本件に則して検討するに、地公労法の適用される職員や同法が準用される単純労務員については次に述べるとおり現行法制上もいわゆる非現業の地方公務員とは異った取扱いがなされており、その地位の特殊性、公共性、勤務条件決定過程の特殊性等を考慮しても、さきの労働基本権の制約についての判断基準に照らし、地公労法十一条一項が文言どおり争議行為を全面、一律に禁止するものとすれば憲法二八条違反の疑いがあるので被告の合憲であるとの主張は採用できない。単純労務職員はすでに述べたとおりその労働関係、身分取扱いについては、非現業の地方公務員と異り地公労法(十七条を除く)及び地公企法三七条から三九条までの規定が準用される。

その結果、地公企法三八条四項により、職員の給与の種類及び基準は条例で定めることになっているが、これは抽象的なものであって、具体的に賃金その他の労働条件の多くの部分は地公労法七条によって団体交渉の対象とされており、これに関し労働協約を締結することができる。もっとも労働協約については、条例及び予算による制約があり、団体交渉の相手方である市長のみでは処理できず、議会による予算措置が伴わなければ、右協約も当該地方公共団体を拘束せずかつそのような協定に基いて資金を支出してはならないが、このような場合も、当該地方公共団体の長は、協約締結後一〇日以内に、事由を附しこれを議会に付議して、その承認を求めなければならないのである(同法一〇条一、二項等。)。このように単純労務職員等についてはいわゆる非現業の地方公務員の勤務条件決定の過程と異り明文上も労働基本権の制限の程度も緩和されている(団体交渉権が保障されている)。

また単純労務職員等は、原告ら、清掃作業を例にとっても、肉体的、機械的労務に従事するものであって、地方公共団体に特有のものではなく、民間企業にも同種の業務に従事する多数の労働者が存在する。そして清掃事業は、地方公共団体の公共事務(地方自治法二条三項七号)に属するが、当該地方公共団体が直接清掃作業員を雇傭して清掃業務にあたる場合もあれば、地方公共団体が民間の清掃業者に清掃業務を委託する場合もあることは公知の事実である。

このようにみてくると、原告らの従事する清掃業務は、その公共性に着眼する限り民間企業における公共性と比照し特に異るところはない。

なお企業職員、単純労務職員につき、「苦情処理共同調整会議」の設置、労働組合による不当労働行為の救済申立権、労働委員会によるあっせん調停、仲裁の制度を設けている。

しかし前述のとおり多くの労働条件の決定は原則として団体交渉によることとし、議会による条例あるいは予算上の制約に加えて、更に単純労務職員等から全面、一律に争議権を剥奪することは、既に叙述のとおり単純労務職員の地位ないし業務、その公共性、勤務条件決定過程の特殊性を考慮し許されないというべきである。

第四  本件一〇月八日の争議行為は地公労法十一条一項に禁止する争議行為に該当するか。

一  ≪証拠省略≫によると、北九州市では、市が清掃作業員を雇傭し、直接、市の清掃業務を処理しているところ、ごみ及びし尿の清掃業務は、市民の健康に深くかゝわりあいをもち、これが停廃は、それが長期間にわたれば、単にごみ及びし尿の計画収集に混乱をきたすにとどまらず、ごみ、し尿の滞貨によって病原菌を培養する結果ともなりひいては市民の生命健康公衆衛生等に重大な障害を生じることが推測される。しかし、清掃業務の短時間にわたる停廃は、所定の収集計画に若干の支障は生じても後日の努力によって回復可能と考えられる。もっとも収集計画の支障によって市民生活にある程度の迷惑をおよぼすことにはなるであろう。以上の事実を認めることができこれに反する証拠はない。

このようにみてくると、単純労務職員であるとはいえ、原告らの従事していた清掃業務は地域の住民生活に対し深いかかわりをもち、職務の停廃が長期にわたれば市民の生命、健康等を危くする意味においてその公共性は比較的強いといえる。

これまで述べてきたところから、地公労法十一条一項で禁止する争議行為には、本件清掃業務の場合、短時間にわたる職務の停廃であってごみ、し尿の収集計画が若干延長し市民生活に単なる迷惑を及ぼす程度のものはこれに該当しないと解せざるを得ない。

二  一〇月八日のストライキは、既に認定のとおり、自治労の公務員賃金引き上げ、人事院勧告の完全実施を目的とし右方針に従った市労の指令のもとに予め示された方針に基いて統一的に行われたもので、ストの態様は単なる労務の不提供でありその時間も始業時から五七分間という比較的短時間であって、市民生活に及ぼした影響も、ごみについて当日収集予定量の約二五%し尿については当日収集予定量の約二二%の滞貨を生じる程度のものであった。(もっともごみについては事務所側の努力により同日中に滞貨処理を完了したので現実の市民生活には何らの影響はなかった。)

従って右ストライキは地公労法十一条一項の禁止する争議行為に該当するとは云い難い。

第五  本件懲戒処分の違法性

一  原告らの一〇月八日における行為の評価

(一)  被告主張の、原告ら三名による一〇月八日の入室阻止行為及び原告三村同早川のマイク放送に対する抗議は前述(理由第二の三の(二)、(三))のとおりその事実を認めることができない。

原告牧野のマイク放送に対する抗議は、前記正当なストライキを防衛する目的に出たものであってこれを違法ということはできない。

また同日のストライキは前記第四の二のとおり地公労法十一条一項に該当せず、かえって憲法二八条の保障する適法な争議権の行使にほかならない。しかして原告ら三名の右ストライキに対する指導及び参加行為も、前記認定の如きものであって、その間特に違法とすべき態様のものはなかったと認めるのが相当である。

(二)  清掃車を借りた措置に対する原告らの抗議について判断する。

地公労法七条本文は団体交渉の対象事項をかゝげ但書においては地方公営企業の管理及び運営に関する事項は団体交渉の対象とすることができない旨を明らかにしている。

右にいう管理及び運営に関する事項とは地方公営企業体の企業経営及び企業活動についての包括的権限に属すべき財産管理及び処分、事業計画の立案などを指すものと一応いうことができる。

既に認定のとおり、小倉西清掃事務所が同日車輛不足のため同じ北九州市清掃事業局に所属する小倉東清掃事務所から予備車を借りてきて配車する措置は、同局に属する財産を操作することであるから前記法条にいう運営事項にほかならない。これによって特に組合員らの労働条件が不利益に変更されたりするような事情があったことの立証はない。

従って右配車措置に対し原告らを含む多数の清掃作業員がこれに抗議し、その間職務を放棄すること(≪証拠省略≫によると約七分間)は、東、西両事務所の労働組合の対立を考慮しても違法な行為であることを免れない。

(三)  原告三村のガラス破損行為は前記(理由第二の三、(四))の限度で認められる。しかして右破損行為は過失によるもので概して軽微であるとはいえるにしても、前記違法な抗議行動中に行われたものでありその発言内容及び態度等をも考慮し違法行為であることを失わない。

二  原告らの一〇月二六日における行為の評価

(一)  名札の点検による出、退勤の確認について

地方公務員が条例や規則上定められた勤務時間を遵守すべきことはいうまでもない。

ところが既に認定のとおり(理由第二の四)小倉西清掃事務所の清掃作業員はその勤務形態とも関連し、午後三時五〇分の退庁時刻を待たないで退庁する者が多く容易に改まらない状況にあった。

勤務時間遵守の方法として、違反者に対する注意及び制裁等があるが、その前提として誰が勤務時間を遵守しなかったかを容易に確認し難い場合もある。ことに本件のごとく、清掃作業員(約一一四名)の労働場所はいわゆる野帳場であるから仕事を終えて事務所に帰って来た多数の清掃作業員を退庁時刻において管理職が個別にこれら清掃作業員の早退の状況を把握することはかなりの手間と時間を要するであろう。

このようなことから出、欠勤(早退等)の状況を統一的かつ簡易に確認する方法として、これまで出、欠勤の状況と手割の便宜のため設置していた名札板(詰所内)を利用し出勤時は午前八時五分ごろ、退庁時は午後三時四五分ごろに管理職立会の下に清掃作業員各自が自己の名札を返すこと、を考案し、勤務時間を厳守させようとしたものと推認し得る。

もっとも右の方法は、管理職からみれば能率的かつ簡便な方法であるが清掃作業員にとってみれば、勤務時間さえ遵守すればよいのであってそれ以上に管理職立会の下に名札を裏返すことは、その作為を要求されると同時に、不信用を表明されたものとして心理的な抵抗を感じる者なしとしない。

それ故、右の方法が労務管理として良策か否かは問題であるが、退庁時刻が遵守されない傾向にあり、また右方法を採用したからといってそれほど清掃作業員に負担を強いるものとも思えない。

従って右名札点検による出・退勤確認の方法は労働時間等の労働条件に変更を加えるものではなく、すでに定められている勤務時間を遵守させるための一手段であって地公労法七条にいう管理運営事項に含まれると解するのが相当である。

この点につき原告らは右名札点検による出退勤の確認は、労働条件に関するものとして当局の一方的実施は不当であると主張する。なるほど従来のいわばルーズな退庁をしても、多くは賃金カットもなかった時期と比較すれば、一見、原告ら主張の如き見解も成立するかにみえる。しかし、前記認定の如く、当局側は、これを是認していたわけではなく、再三注意し、警告して来たのであって、そのような退庁のありかたが慣行として承認されていたとも認められない。もっとも市当局の採用した方法が、たとえばタイムレコーダーの場合にくらべると作業員らの反感を招きやすいものであり、従来からのルーズな退庁を改めさせるためには、いわゆる事前協議にさらに日時をかけた方がより円滑に問題を処理できたであろうが、前記の如き事情を前提としてみる限り、右原告らの主張は採用できない。従ってこれは、市当局がいわゆる事前協議という形で事実上任意に交渉を為すことは別として、法律上団体交渉の義務を負う問題ではなかったと判断するのが相当である。

(二)  原告らを含む清掃作業員約一〇〇名の一〇月二六日における争議行為(同日午前八時三〇分ごろから同九時四〇分ごろまで)は、市労の指示に基づく組合活動として行われたものであるが、その目的は主として右(一)に述べた「名札の点検による出退勤の確認」の一方的実施に反対するためのものであった。また右争議行為の態様は、約一時間一〇分にわたる職務放棄とその間約三〇分間にわたる二〇ないし三〇名による抗議行動を伴うものであった。

右争議行為の目的が正当性を欠くことは右(一)に述べたところによって明らかであるが、その態様においても、喧噪にわたる抗議行動を伴い、いわゆる集団交渉の観を呈したもので、仮りにこの抗議行動を団体交渉と考えてみても、その方法において妥当性を欠くものといわなければならない。

従って右争議行為は違法であると解するのが相当である。そして原告ら三名は右違法な争議行為に参加したものであるから、各自の職務放棄と抗議行動は違法なもので、免責をうけることはできないと解される。

この点につき原告らは違法な争議行為であっても、それが組合活動として行われた場合これに参加した各組合員個人の責任を追求されるべきではない旨主張する。

違法な争議行為も組合の決定に基くものである以上組合活動であることは疑問の余地がない。しかし組合活動といえども、それが違法な行為である限り労働法上の保護を受け得ないものであるから、若し使用者が違法な争議行為によって損害を蒙ったような場合は、組合がその損害を賠償すべき責任を負うことはもちろん、これに参加した組合員が各自の職務放棄その他の違法な行為につき、責任を負うべきものと解するのが相当であって、右主張は採用できない。

(三)  原告三村の、名札の点検実施に対する妨害行為は、それ自体を取り上げれば違法な行為といわざるを得ないが、既に認定のとおり、名札の点検実施の問題については、小倉西清掃事務所は当初一〇月二六日から実施の方針ではあったが、同日、所側と市労の代表者との話し合いの結果、近日中に改めて右問題につき交渉するとの合意ができ、原告早川支部長はこれを点検中止と解して原告三村ほか組合員に報告していたので、原告三村としては合意を無視して一方的に同日から実施することに対し憤慨したものと認められ、右妨害の態様も、発言内容の適否はともかく、物理的妨害ではなく、同日名札の点検実施ができなかったのは主として清掃作業員が非協力的態度に出たことによる。

三  懲戒権の濫用について

(一)  地公法二九条一項は「職員が左の各号の一に該当する場合においてはこれに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。」と定め、懲戒事由として地公法等の法律又はこれに基く条例規則もしくは規程違反(一号)職務上の義務違反又は職務を怠った場合(二号)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行を行った場合(三号)を列挙しかつ同法二七条三項は「職員はこの法律で定める事由による場合でなければ懲戒処分を受けることがない」と規定し職員の身分を保障している。

また職員の服務義務として同法三二条は法令等及び上司の職務上の命令に従う義務を定め、同法三五条には職務に専念する義務を規定している。

原告らの前記一〇月八日の、清掃車を借りた措置に対する抗議行動は右三五条の職務専念義務に抵触し、同法二九条一項一、二号に各該当する。原告らの一〇月二六日における就労命令違反と、職務放棄を伴う抗議行動は同法三二条に違反し、同法二九条一項一、二号に各該当する。原告三村のガラス破損は、一応、同法二九条一項三号に該るものといえよう。更に、一〇月二六日の争議行為はその組合活動としての正当性が認められない故に、地公労法一一条一項を論ずるまでもなく違法といえる。

(二)  しかし元来、懲戒処分は職員の服務義務の違反に対して、任命権者が公務員関係の秩序を維持するために科する制裁であるが、地公法二九条所定の事由に該当する職員に対し、懲戒権を発動するか否か、いかなる処分を選択するかは任命権者の裁量に委ねられているといえるにしても、その裁量はおのずから合理的かつ客観的に適正な範囲内において行われなければならない。

ところで被告がなした本件各懲戒処分の対象とされた事実中一〇月八日のストライキ、入室阻止行為及びマイク放送に対する抗議は、既に述べた理由によりいずれもこれらの事実を前提として懲戒処分の対象とできないものである。

懲戒処分の対象とされうべき事実のうち、原告三村のガラス破損は、既に認定のとおり「ひゞ割れ」していたガラスであって懲戒処分の前提となった事実との間に誤認がある。

原告ら三名の清掃車を借りた措置に対する抗議並びに職務放棄を伴う抗議行動は既に詳細に述べたとおりである。

とりわけ原告らが最もその責任を追求されうべき右職務放棄を伴う一〇月二六日の抗議行動は、原告らがそれぞれ市労の組合役員をしているとはいえ、原告各自の果たした役割及び行為につき、その限度で責任を追求し得るものである。

他方、本件懲戒処分のうち懲戒免職は職員たる地位を剥奪されるのみならず、右処分を受けることによって地方公務員等共済組合法一一一条一項同法施行令二七条一項二号により長期給付金のうち一定割合について支給しないこととされるなどその社会的、経済的不利益の程度は重大なものである。

停職処分は「北九州市職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」四条によれば、停職者は停職期間中いかなる給与も支給されないしまたその「職を保有する」関係上地公法三五条の職務専念義務から解放されず、他の職につくこともできない。また、長期給付の制限については、前同様である。

(三)  これまで述べてきたところを総合すると、原告三村に対する懲戒免職処分は、処分の対象とされた事実の重要な部分についての誤認と、残余の処分の対象とされた行為に比較し著しく均衡を失した苛酷な処分であって懲戒権を濫用したものとして違法な処分と解する。

原告早川同牧野に対する各停職三月の処分は、やはり処分の対象とされた事実の重要な部分についての誤認と、残余の処分の対象とされた行為との間にはかなりの程度において均衡を失しているので、社会観念上著しく妥当性を欠くものと解され、裁量権の範囲を逸脱したものとして違法性を帯びるものと解するのが相当である。

第六  むすび

以上の次第であるから被告のなした原告らに対する各懲戒処分は違法なものというべく、その余の点につき判断するまでもなくその取消しを求める原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野重信 裁判官 中根与志博 吉田哲朗)

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